2014(平成26)年10月23日、最高裁判所は、妊娠による嫌がらせ(マタハラ)の事件に関して、画期的な初めての判断を示しました。
この事件は、病院の管理職(副主任)として勤務していた女性が、妊娠したため軽易な業務への異動を求めたところ、異動後に管理職を外され、育児休業終了後も元の管理職に戻されなかったことから、降格の無効や損害賠償などを病院側へ求めたものです。
法律上、女性労働者が妊娠した場合は、軽易な業務への転換を請求することができ、雇用者は、その転換を理由として、不利益な取り扱いをしてはならないこととなっています。
この事件では、異動後に管理職を外されたことが、法律上禁止される不利益な取り扱いに当たるといえるのかが、主な問題となりました。
第一審、第二審の判決は、降格処分について、いずれも「同意を得たうえで、事業主としての必要性に基づき、裁量権の範囲で行った」などと判断し、法律に違反しないとして、女性側の訴えを棄却しました。
これに対して、最高裁判所は、①軽易な作業への転換を契機としてなされた降格は原則として違法である、②自由意思に基づいて降格を承諾した場合や、業務運営上降格の必要性があり、その降格が法律の趣旨目的に反しない場合に限り、例外的に降格も許される、と判断し、訴えを高等裁判所に差し戻すという判決を下したのです。
この判断は、軽易な作業への転換を契機としてなされた降格の適法性について、極めて厳格な判断をしたものであり、妊娠した労働者の十分な保護につながる画期的な判決といえます。
これまで、日本では、妊娠した方への保護が必ずしも十分でなく、退職等に追い込まれることも、決して珍しいことではなかったように思います。この判決は、かかる日本の現状について、一石を投じるものとなったといえるのではないでしょうか。
2016年8月 弁護士 川越伸裕(流山法律事務所)