【午後の部】シンポジウム「「子宮頸がんワクチン」接種被害をめぐる諸問題」
午後には、水口真寿美弁護士(HPVワクチン薬害訴訟全国弁護団共同代表)、原告の酒井七海さん、打出喜義医師(小松短期大学特任教授・産婦人科)が報告し、フロアーとの間で活発な質疑応答が行なわれました。
報告1「HPVワクチン訴訟がめざすもの」水口真寿美氏(HPVワクチン薬害訴訟全国弁護団共同代表・弁護士)
水口弁護士は、「HPVワクチン訴訟がめざすもの」と題して、感染しても子宮頸がんになるリスクの低い感染症に対し、有効性が不確実かつ限定的である一方で、重篤な副反応を生じさせるHPVワクチンを承認し定期接種化したことの問題点、早期承認と定期接種化の背景にある製薬企業の啓発を装ったプロモーション、WHOの利益相反問題などを指摘したうえで、本訴訟が賠償金の獲得にとどまらない真の救済と薬害防止を目的とするものであることなどを報告されました。
原告訴え
酒井七海さん(東京原告全国原告団代表)
全国原告代表の酒井七海さんが副反応被害の発症の経緯、脳機能障害と車椅子生活を余儀なくされ、介護者なしには生活できない日常を紹介、被害の責任を明らかにし、原因、治療法の解明、生涯にわたる医療・生活の保障を強く求めると訴えられました。
報告2「子宮頸がんワクチン接種推進論者への反論」打出喜義氏(小松短期大学特任教授、産婦人科医)
打出産婦人科医師は、「子宮頸がんワクチン接種推進論者への反論」と題して、子宮頸がんの発症、治療、予後の特徴を示し、その上で、HPVワクチンは長期にわたって強力な免疫賦活作用を維持するよう設計されていること、HPVはヒトタンパクの多くと相同性を有していることから、長期に渡る多彩な HPVワクチン副反応出現の可能性を指摘されました。
討論
討論では、厚労省はあくまで接種後 1カ月以内の注射に伴う症状以外は副作用と認めておらず、被害救済も限定的であること、そのため指定医療機関も副作用として対応せず、心身の反応、詐病としてたらい回しされている現状、接種者アンケート調査を実施した結果、高頻度に副作用が現れていることが判明したこと、医療機関が患者に寄り添う姿勢で対応することの重要性等について活発に討論されました。今後、国に全接種者調査を求めていくこと、現場でもアンケート調査に取り組むこと、訴訟に向けた学習会の開催等を意思統一しました。
2017年4月12日 国民の医薬シンポジウム実行委員会
去る12月17日、「第26回国民の医薬シンポジウム」を、シンポジウムのキーワードの一つである、「薬と経済」をテーマに、当日上映した映画のテーマ「薬は誰のものか」を主題として、御茶の水の「全労連会館」で開催しました。全国各地から75名の参加があり、熱い討論がかわされました。
午前の部では、片平実行委員長の開会挨拶(今回は「薬と経済」がテーマだが、そのことを考えるためには、「薬と人権」についての基本を踏まえる必要があるとして、「世界人権宣言」や、それを具体化した「国際人権規約」を紹介)の後、ドキュメンタリー映画「薬は誰のものか~エイズ治療薬と大企業の特許権」(84分)が上映されました。
この映画は、2013年にインドで製作された作品で、1990年代後半、アフリカ諸国やインドなど世界の開発途上国における何千万ものHIV/エイズ感染者の実態と、感染者が生き延びるために有効な医薬品が開発されながら、それらの薬が多国籍製薬大企業(ファイザー、グラクソ・スミス・クライン等)が有する特許権のため、貧困層には手が届かないという問題を主テーマとしています。
このような状況を打開しようと、世界各国で、患者団体や活動家、ジェネリック医薬品企業が患者たちに医薬品を届ける努力を重ねます。その末に、インドのジェネリック企業シプラ社が1日1ドルの低価格で治療薬を開発します。しかし、1995年から始まっていたWTO(世界貿易機関)のTRIPS協定のもとで、安価な医薬品の流通を阻む動きが続きました。その後、TPP(環太平洋パートナーシップ)やRCEP(東アジア経済連携協定)などが作られ、数々の貿易交渉の中で、最も深刻な問題になっているのが「医薬品アクセスと企業の特許問題」で、「命か利潤か」の攻防が続いています。この映画は、そうした問題を世界各地での取材でリアルに解明しています。まさに「薬は誰のものか」という問題を世界の人々に提起している映画といえます。
上映終了後、この映画の普及に係わったアジア・太平洋資料センター(PSRC)の共同代表である内田聖子氏が、こうした点を解説されました。「上映会」の案内もされ、経費は3000円のDVD代金と、1回1万円の上映料とのことです。
午後の部は、「高額医薬品問題を考える」をテーマにしたシンポジウムが行なわれ、東大大学院薬学系研究科特任准教授の五十嵐中(あたる)氏が「くすりの費用対効果評価とは?-「オカネより命」を超えてー」と題して、同じく東大の名誉教授で、会計学がご専門の醍醐聰氏が「製薬企業のグローバル化と高薬価問題」と題して、また全日本民医連副会長で京都民医連中央病院名誉院長の吉中丈志氏が、「高額医薬品問題 医療介護負担増―貧困・格差という文脈」と題して、それぞれスライドを映しながら講演されました。
五十嵐氏は、医薬品の「費用対効果評価」について、先ず、ソバルディ・ハーボニー(C型肝炎治療薬)、オプジーボ(肺がん治療薬)、レパーサプラルエント(高脂血症治療薬)を取り上げて、これら高薬価薬(オプジーボは、1ヶ月260万円!)の医療財政へのインパクト(例えば、オプジーボは、肺がんの場合には、最高1兆円??)を試算し、その高薬価を「何%下げられるか」という推計値を紹介しました。そして、医療経済評価の「原則」は「薬の費用対効果」の算定であるとして、ICER(増分費用効果比)やQALY(質調整生存年)等の指標を紹介し、「費用対効果評価」(「オカネと効き目のバランス」の重要性を指摘しました。
醍醐氏は、「先進諸国では、いずれも高薬価問題に直面し、各種の薬剤費抑制策に取り組んでおり、それらは、(1)英・仏・伊等=保険償還や価格に介入するタイプ、(2)独・英・仏等=企業の利益に介入するタイプ、(3)米・英・仏等=推奨医薬品リストの作成や参照価格制度など、使用に介入するタイプ、(4)英国など多数=費用対効果評価の結果を保険収載の可否に反映させる、(5)仏・独等=ハイリスクの患者に重症化予防を行い、高額薬剤の使用を防止する、の5つに大別される」と指摘。日本では、薬剤費については、市場拡大再算定制度(当初想定した売上げ市場規模の2倍以上、かつ年間売り上げが薬価ベースで150億円超となった場合、当該医薬品並びに、場合によっては類似薬効の他の医薬品も含めて、薬価の引き下げを行なうという措置のこと。日本薬学会「薬学用語解説」による)がとられているが、適用条件が狭すぎて、実効性が限定されており、4半期ごとの見直しの対象となるのは極く一部なので、今後はこれを見直し、「薬価高止まり」の是正と、開発インセンティブとの調和をはかる必要がある、として、その具体案を提示されました。
吉中氏は、日本では医療を含め、社会保障は憲法で国民の権利と規定されているが、生活困窮状態にあり、「患者になれない」病人が多く存在しているとして、その事例を示されました。また、患者さんからは、「化学療法の薬が高くて困る」との声があがり、調剤薬局には「無料低額診療が適用されない」などの問題があることを指摘。社会保障を充実させるための政治の転換が必要、と強調されました。
以上、3人の講師の問題提起の後、会場からの質疑と、それらに対する講師の回答がされました。「医薬品の経済評価はきちんとした費用と効果のデータが必要。『効く』ということについて、もう一度見直すことが必要」(五十嵐氏)、「薬価算定式を公開することが必要。審議会の議事録は全て開示すべきだ。」(醍醐氏)、「政府が国際協調しながら医薬品開発のサポートをすべき。全世界で核兵器廃絶をすれば、相当の費用が支出できる」(吉中氏)などの指摘がされました。
以上でシンポジウムは終了し、閉会の挨拶で、佐藤嗣道実行委員は、各講師が話された内容の概要を紹介した後で、「高すぎる医薬品が現実に存在する。市民レベルでの発言も必要と感じた。」と感想を述べ、閉会しました。